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宇宙芸術とは2

2008年10月13日 (月) 視点・論点「宇宙芸術」より

逢坂卓郎

初めての地球外に於ける芸術の展示は、1993年にロシアの宇宙ステーション・ミール内で展示されたアメリカのアーティストArther Woodsの彫刻“Cosmic Dance”です。これは浮遊する事を前提に創作されたものでした。

2003年にはフランスのPierre Comteが動く彫刻Prisma, 2001を国際宇宙ステーションISSで展示しました。

日本では「宇宙航空研究開発機構—JAXA」が地球外から捉えた新たな地球観をどのように活用し、何を考え、我々の子孫に何を残して行くべきか、その答えをみつけるために、 世界で初めてオフィシャルにISSを利用した文化・人文社会科学的活動の実施を決定し、1996年から調査研究を始めました。その理由は、近い将来、人類がISSに長い間滞在する事になれば、そこはミニ地球社会となり、人文・社会科学的な実験の場として新たな倫理観、世界観、地球観、宇宙観を創出する事になるからです。4年間の議論の結果、先ず宇宙に於ける芸術の可能性を考察する事になりました。

そして2006年に、芸術をテーマとした実験を予備的に行うためにアイデアの募集を行い、選定委員会により表にある10テーマが選ばれ、2008年から2009年の1年間程度をパイロットミッション実施期間としました。

6月に日本の実験運用モジュールJEM-KIBOがISSに接続され、9月から第一回目の文化・人文社会科学領域の芸術実験が始まりました。そこでは、芸大の米林雄一先生提案の「宇宙モデリング」と京都市立芸術大学の藤原隆雄先生の「水の球を用いた造形実験」、そして私の「水球墨流し絵画」が実施されました。

宇宙モデリング
Plan:Yuichi Yonebayashi / Operation:JAXA / Astronaut:Gregory E. Chamitoff

これから見て頂く映像は9月9日にアメリカの宇宙飛行士Gregg Chamitoff氏によって実施されたものです。
ギリシャの哲学者ターレスの言葉にある「万物の根源である水」、地球上の生命を生み、進化させてきた水そのものを地球から遊離させ、水球に様々な刺激を与えて有機的な模様や色彩の変化を浮かび上げ、水を芸術のメディアとして使おうとしたものです。
-そこで “無重力下に於ける水球墨流し絵画の制作“を生命圏としての地球の象徴的なオブジェとして制作する事を試みました。
日本の墨流し絵画技法は西欧ではMarblingと呼ばれ、古くから国を越えて親しまれて来ました。水球に色のついた墨を流し、地球大気に見られる雲の流れのような美しい現象を制作してもらえるように、テキスト内容に準じて仕事を進めてもらいました。表面張力の違う界面活性剤を混入させる事と、回転による遠心力に影響されながら、液体が水球の中に入っていく事が観察されます。奥行きのある墨流し絵画を製作した後、水球表面のパターンを半球状の和紙で吸い取り定着させました。それを11月に地上に持ち帰り展示する計画です。

2009年2月以降、さらに幾つかの作品が“KIBO”内で実験される予定で、その内容は「ダンス」「光アート」「宇宙庭園」など多彩です。10月にイギリスのグラスゴーで開催された国際宇宙会議IACでは、この日本のオッフィシャルな宇宙芸術ミッションへの関心は非常に高いものでした。日本独自の発想による文化・人文社会科学領域の実験は世界に刺激を与えたようです。 西欧各国が芸術を国外への文化戦略として活用してきた事例は数多く見られます。この8月に政府の下に発足した宇宙開発戦略本部において日本文化を背景に「宇宙・人文社会科学領域」を我が国の文化戦略の一つの柱とする事を提案いたします。そして、地球外の視点に立った新しい世界観と美意識が日本から発信される事を望んでいます。

私の行った実験は小さなものですが、提案から実施まで8年が経過しました。その間、ジェット機による3回の微少重力実験と、宇宙飛行士へのインタビューなどを通して、視点と観念の跳躍的な体験を得る事ができました。
現在、私達は私達によって地球的規模で変容していく様々な問題について解決の糸口を模索しています。このような状況の中では、前述した跳躍的な視点無くして解答を得る事はできないのでは無いかと考えています。
芸術もまた、過去を注視しつつ新たな世界観の胎動を受け入れ、自ら発信して行かねばなりません。何故なら芸術は科学と技術により開かれた世界の中で、どのように生きるべきかという問題提起を通して、歴史にその立脚点を構築してきたのですから。

宇宙時代の芸術の意義と課題もまさにここにあるといえるのではないでしょうか。



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